肝臓と肝炎ウイルス
日本における肝臓病の80〜90%は肝炎ウイルスが原因です。アルファベットでAからE型までありますが、慢性肝炎で問題になるのはB型とC型です。ともに血液を介して感染するウイルスですが、B型は主にウイルスを持っている母親から分娩時に感染する母子感染により、C型は輸血などが原因で感染します。B型の母子感染は1985年から始まったB型肝炎母子感染防止事業により新たな感染児はきわめて少なくなっています。また、輸血が原因のB型、C型肝炎も高感度検出法を用いた血液スクリーニングの普及により年間数例になっています。
現在、B型肝炎で問題になっているのは急性肝炎からの慢性化です。従来、その頻度は数%と言われていましたが、近年、外国由来の慢性化しやすいゲノタイプAによる急性肝炎が増えています。急性B型肝炎は性行為感染症の一つと考えられているので、HIVなどと同様にコンドームの使用を忘れないことが大事です。また、このような成人の感染を防ぐためにも、B型肝炎の予防接種を乳幼児時期に全員に行うべきだとの意見もあり、現在検討されています。
一方、C型肝炎は新たな感染例はほとんどいませんが、戦中戦後の混乱期に輸血、血液製剤、覚せい剤注射などで感染した方々が、現在高齢化し発癌年齢になっています。日本の肝臓癌の80%はこのC型肝炎が原因で大きな問題です。しかし、現在世界中でC型肝炎に対する抗ウイルス剤の開発が進行中で、毎年、ウイルス駆除率70〜90%という治療効果の高い新しい薬が市場に出てきています。あと10年もしたら、C型肝炎は日本から殆ど無くなってしまうのではないかとさえ思われます。
B型肝炎でもう一つ問題になっているのが、肝炎の再活性化です。B型肝炎は母子感染で慢性化しても、80〜85%の方は自然経過で肝炎も安定化し治療の必要もありません。しかし、B型肝炎は一度感染すると肝細胞の中にウイルスが残るので、血液中のウイルスが陰性化した人も含め、移植、抗癌剤、リュウマチなどに対する生物学的製剤による治療などによって免疫力が抑えられると肝臓の中に潜んでいたウイルスが急激に増えだして重篤な肝炎を起こす事例が増えています。
肝臓病はだるい、食欲がなくなる、黄疸がでる、などと思われているかもしれませんが、B型肝炎もC型肝炎も多くは無症状です。感染の有無を知るには血液検査しかありません。40歳以上の方は市の健診、あるいは保健所で検査を無料で受けられます。今の日本では新たに感染する機会はほとんどないので、一度で良いので検査を受けることをお勧めします。
2013.4.1